小泉総理の聖域なき構造改革
茨城県医療法人協会ニュース 2002年4月1日 発行

 国民の圧倒的な人気で小泉総理が誕生して以来、いよいよ本格的な小泉流の構造改革の手法が今国会で法律案として出てきた。それに対し、やる前から「出来る、出来ない」の論議が百出している。マスコミ報道で1億総国民が評論家になり、政治が群集化している。端的に言うと、「法案審議の段階」で報道され、誤報でも何か問題があるとFAXやメールでクレームがつく。週刊誌やワイドショーで報道され、誰が良いとか悪いといって、政治を面白く表現するのは果たして国民のためになっているのだろか。昨年はKSD事件で参議院議員会長と小山議員が辞職した。今年は外務省問題で鈴木宗男代議士や秘書の不正疑惑で加藤紘一代議士が辞職に迄追い込まれようとしている。毎年、重要法案の審議を放棄して、この類の問題で「政治家を生贄」にしてからでなければ、法案審議をしないという野党の戦法は政治家にあるまじき行為のような気がしてならない。昨年と違い、今回の問題では族議員と省庁内の醜さが浮き彫りになったのも特徴である。田中真紀子大臣が更迭されたら小泉総理の人気が30%もダウンするというのも何となくおかしな現象である。鈴木議員の歩が悪くなったら、外務省から証拠メモが色々出てきた。これでは真面目に政治に取り組む気持ちは削がれ、キーパーソンは結局各省庁が持っていることになる。
 さて、今年度の最重要法案は健康保険問題で、本人の3割負担の是非が問われている。景気低迷中に2割から3割に上げ、しかも保険負担料率を8.3%に上げないと医療保険が破綻してしまう。一方、雇用の喪失も深刻な問題である。景気対策の具体案が決まらない内に、既にこの問題は法律案として提出予定になっている。世界でも類を見ないほど成熟しきった日本の景気は今以上に豊になるはずはない。飽食の時代を過ごした国民は1,300兆円もの預金を持っているにも関わらず、今の不景気感は一体何なのだろうか?バブル時期の「ものを作れば売れた」時代は過ぎ去ったのである。物余り現象で外国製品が安く輸入され、価格破壊が起きデフレ傾向が出始めたが、人件費は相変わらず世界一高い。この景気回復には内需拡大しかない。そこでワークシェアリングが話題になっており、賃金を安くしようとしている。しかしここで雇用者になったとしても、年金を考慮しないで給与を減じたのでは将来の不安感は拭い去れない。
 ところで、小泉総理の構造改革案の姿が見え始めた。私は現在の法案では現場に即していない様な気がしてならない。既に、国保法を見ても、必ず負担ありきで将来構想が見えないからである。今年は医療法の改正、来年は介護保険と年金改革、その翌年は障害者プランの問題など、社会保障制度(医療・介護・保険・福祉・年金等)の内容が別々に改革されようとしている。どうして一括して改革しないのであろうか?例えば今回の改正では在院日数が短縮される。それ以上入院すると自費扱いになる可能性がある。慢性病院に移れば良いのだが、慢性病院の定義が明確でない。介護保険施設は満杯で利用できず、直接家庭に帰らなければならないことになる。しかも、高齢者等は介護保険施設を利用できるが、若年者は施設を利用できない。その意味ではこの改革案は、お金ばかり掛かり、慢性患者は家庭に帰らざるを得ないので家庭環境は混乱する。
 話は変わるが、民間企業は生き残りを賭けて統廃合やリストラを断行しようとしている。現在の年金制度(賦課制度)では4人の労働者で1人の老人を、20年後には2人で1人の老人を支える制度になると予測されている。ところが、最近は雇用情勢が変化して、ワークシェアリングやパートの人達にも社会保障費を納めさせようとしている。リストラされたら、今までの厚生年金から国民年金に移らざるを得ないが、収入が無いので、保険料を支払えない。この場合、年金額は少なくなり医療費・介護の一部負担金を支払う能力はなくなる。だから失業保険をどうするか?農林漁業や自営業者等が掛けている国民年金制度をはっきり決めた上で、医療や介護の一部負担のあり方を論議するべきである。
 私の独断的な結論を言わせて貰うと、国民基礎年金の額を10万円程度に上げて、年金受給者からも社会保障費を支払う制度にし、またリストラされた人の失業保険もやはり10万円程度にして社会保障費も支払う制度にしないと、社会保障構造自身が完全に破綻してしまうだろう。それには当然財源が必要であるが、扶養控除や手当てを福祉目的税に充てたり、労働災害保険(8兆円も残っている)を失業保険に充てたりして、20歳以上の国民(生活保護者も含む)全てが社会保障費を支払う制度にしてはどうだろうか。しかる後に生活に困窮する人達に福祉手当を支給する制度を新設するという「平成維新」を断行すべきだと思う。


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