くのっち身を捨ててこそ浮かぶ瀬がある
【平成14年8月25日】

    先の見えない景気低迷の中で、第154回国会において、政府はどの様な手を打ち、それに対して国会議員はどの様に審議をしたのであろうか?私には全くその形跡が見えないのが残念である。小泉総理は「構造改革無くして景気回復なし」とし、改革に伴う「痛み」を強調したが、提出された重要法案「郵政3事業」「健保法改正案」「個人情報保護法案」「有事法制」などの法整備で、国民にどの様な「痛み」を伴い、その結果どの様に景気回復があるのか?サッパリ見えてこない国会審議であった。相変わらず自殺者は4万人を4年連続して超えており、殺伐たる凶悪事件も毎日の様に報道されている。政治家の不祥事件や雪印乳業や日本ハムの問題が次々と露呈され、国民は一体何を信じて生活すれば良いのか?不安の中で暮らしている。しかし、この変則的な国会で、確かに行政や政治家は変わってきている。「政と官」のあり方などが問われ、地元に対する仕事(陳情など)は、難しくなった。これでは国民の為の国民が納得する政治はできなくなってしまうと思えてならない。

    8月5日には、「個人情報保護法案」なくして「住民基本台帳ネットワークシステム」がスタートしてしまった。経済財政諮問会議がいう規制緩和の中で、色々と便利になるかも知れないが、本当に国民の将来を安心させることが出来る法案なのであろうか?私にはどうしても理解できない。総理は2兆円減税を提言しているものの「住基ネット」を無理して通した結果は一体どうなるのであろうか?何のためなのか理解できない国民は沢山いると思う。減税すれば国の税収は少なくなり、それだけ国策が打てなくなる。ではどうして景気対策を打ち出すことが出来るのであろうか?今のままでは国民の「痛み」ばかりが目立つ結果になっている。私は、「住基ネット」は国民の将来に年金や社会保障を公平に享受出来る制度であると理解している。勤務途中でリストラにあったとしても、一時期は社会保障制度に加入していたので、その分医療や介護・福祉・年金も該当するはずである。一方、そのためには気が付かないうちに納税義務を怠っていたこと(扶養控除の変化)も分かり易くなり、あといくら支払えば、幾ら貰えるのかが簡単に分かる法律であると理解している。

    郵政3事業の民営化も今回は公社化で終わっているが、かつてJT(日本タバコ)やJR(日本鉄道)と同じで、国営でやっていたのでは国の持ち出しばかり多く、国民の税をその方に廻さなければならなかったが、今は民営化されてサービスも向上し、しかも税収が取れるようになった。それと同じ論理と考える。

    私は40数年医師として生活してきたので、医療現場のことは良く分かっているつもりである。今回の「健保法改正案」ではサラリーマンの3割負担は全く乱暴な話である。しかし、会社員本人は2割で扶養控除を受けているその家族や農林水産業などの自営業者等は3割負担であるが、いきなり同じ社会保険負担にするという発想で3割負担にするのでは理屈に合わない。しかし、考えてみると国保財源が今年度で破綻することが分かっている段階で、患者負担だけで間に合わない負担金を第1号被保険者(自営業)や第3号被保険者(専業主婦)から取るとなるとかなりの無理がある。やはり実収入のある第2号被保険者(サラリーマン)からしか取りようが無い。労使折半であるから、会社側も負担する事になるわけである。その意味では「医療構造改革」無き「健保法改正案」であり、“三方一両損”の医療機関側も応分に損は覚悟しなければならないと思う。今回の保険点数の改正では私の病院も10%弱の損失が発生しているので、何とか生き延びる方法や付加価値をつけないと存続できない。例えば、平均在院日数を14日にして残りの病床を返還するとか、定年制で人件費を削減しなければ存続は不可能になっている。来年8月までに自分の病院の将来像を急性期で残すのか?人手が少ない慢性病院に転換するのかを決めなければならない。このことは経営者が決める問題である。ただ一般企業だけには参入して貰いたくない。しかし、多額の債務を持って潰れるのだとしたら、企業に助けて貰わなければ一生懸命に働いてきてくれた職員達に申し訳ない。私は病院の存続の有無、一般企業の支援の要請、病院形態の変更など、いかなる場合でも経営者たる医師がリーダーシップを取るべきであることを強調しておきたい。

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