医療抜本改革と政治課題
治療 Vol.83,No.6 <2001.6>

 
 現在の日本国民の預金高は約1,330兆円あるといわれている。昨年までは約1,200兆円だったのだが、わずか1年間で130兆円も増えたことになる。この間、世の中の景気が良かったと感じている国民はほどんどいない。確かに金融再生のために投入した財政投融資や景気回復のために公共投資も積極的に行われた。しかし、その効果は皮肉なことに、国民の将来不安の自己防衛役にしかなっていない。誰でも近年中にお金がかかる時代がくるのを承知して、稼いだお金を使い果たしてしまう人はいない。当然”安心老後”が約束されなければ、消費を控え貯蓄するのは仕方のない話しである。稼いだらそれなりに楽しい生活をしたいというのが人情というものだろう。

 さて、注目の介護保険が4月から実施されている。衆議院選挙を直前にして、かなり変更になったのはご承知のとおりである。確かに国民にとっては有利になったかのようだが、地域差にもよるが施設サイドはレセプト請求どおりには入金されず、恐らくこの状態では潰れる施設もでてくる可能性もある。土壇場での約8,000億円投入で「年金天引き半年間延長」も混乱をまねいた。各自治体は4月からの財源徴収をしていない。どんな事業でも最初から財源を確保しないで開始するのは常識外れである。

 そもそも「老後の将来に不安を感じますか?」の質問に対し、大方の人が「不安を感じる」と答えたことから介護保険制度が新たに導入された。しかしその前の医療供給体制を効率化し、どうしたら「将来不安」を取り除けるのかを先に論議すべきであった。すなわち、病院を看護体系の厚い急性と薄い慢性に分け、急性は出来高払い、慢性は定額制(医療法改正案)としてまずスタートさせ、然る後に慢性部分を介護の領域とすればスムーズに受け入れられたのではないだろうか。
 一方、介護保険は要介護度別に点数が分かれているが、手をかけて良くなれば点数が安くなるというのは矛盾している。だから介護保険の内容は現場には全く理屈に合っていない。法的に施設の貼り付け人員が規定されているのだから、運営費は一定である。だから、施設を利用している間は定額制にしないと整合性がとれない。その辺に現場の運営が無視されている感じは、否めない。

 私は次回の医療供給制を立法化する時、医薬分業を徹底し、その目減り分を医療技術料で補填する。急性・慢性の入院形態を整理し、高度医療機器や精密検査は地域的に集約し、合理化して医療費を節約することが重要なことだと考える。その意味では臓器移植は異質なものであり、本来の医療費で扱うのはいかがなものであろうか?

 色々と私の感じているままを書かせて頂きましたが、当然ご異論はあると思います。この誌面をお借りして皆さまとともに21世紀の社会保障制度を考えていきたいと思っています。

 


参議院議員/恒貴会・協和中央病院理事長
E-mail:kunoko@f7.dion.ne.jp

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