治療 Vol.83,No.4 <2001.4>

 新聞などのマスメディアの報道は都合の良い時もあるが、往々に悪いことの方が多い。それを上手に使っているのが行政である。あらかじめ記者にリークしておいて、国民や関係団体からの反応を見る。何もなければいつの間にかその方向に進んでしまっている。メディアを利用することによって、世の中を大きく変えている。

 今年の1月16日の日経新聞に厚生労働省の記事が載っていた。見出しは「特養ホームの補助見直し」とあり、内容は介護保険対応の社会福祉法人が運営する特別養護老人ホーム施設整備の建設補助金を2003年から抜本的に見直すと書いてあった。従来は事業主が県に申請して、採択されれば国が50%・県が25%でトータル75%の建設補助を受けていた。ところが最近は建設に際し、事業主と業者が結託して不正請求する事件が多発しているので、2003年以降は透明性を高めるために、老健なみの基本額(定額)と地域加算(地域のニーズで変動)の定額補助方式にし、従来の建設補助額との差額分については介護保険の中から順次支給すると書いてあった。これでは介護保険費用がドンドン膨らみ、場合によっては国民生活を脅かしかねない話であると、早速、厚生労働省の窓口に問い合わせたところ、「全国厚生労働関係部局長会議資料(平成13年1月19日発表)」を提出してきた。その中には不正請求の件は載っていたが、日経新聞に掲載されていたような定額補助方式のグラフや介護保険上乗せの話などには全く触れられていなかった。

 なぜこのようなことを書くかというと、今までの経過から見て、過去の医療行政が物語っているように、数年後には新聞報道された内容どおりになっているからである。特にこの予算編成の時期には重要な記事が出ることが多く、十分に気をつけて対応策を講じなければならない。しかし所詮個人が問題提起をしても何も動かない。団体として“どのような対応をするか”が問題である。

 新聞報道などをもとに予測される今後の動向として:
 @いずれ介護保険料は増加すると思う。この保険料は年金天引きである。当然、高齢者の公的年金受給者からは不満が続出し、政治的責任をとらされることとなり、医療・介護・福祉の締め付けは厳しくなると思われる。
 A今回の医療法や健康保険法の一部改正によって、診療所の約8割が定額制を導入した。するとレントゲンや検査などは極力行われなくなり、従来から厚生労働省が言ってきた病診連携は促進されるであろう。そうすると次回の改正のターゲットは病院と医薬分業であることは想像に難くない。
 B今まで非営利法人にのみ許可されていた介護保険対応施設にも、今後一般営利企業の参画が許されてくるという。となれば、これまで独自に運営を行ってきた各非営利法人(療養型病床群、老健施設、特養ホーム)はこのままでは存続そのものが難しい状況になる。そこで私が提言したいのは、三者が互いの利益を考慮しながら、情報ネットワークなどの活用で連携をとり一致団結するべきだということである。それにはお互いの得意分野で“患者や利用者の幸福”を考え、総合的に判断できる代表者(医師が望ましい)がリーダーシップをとるべきであろう。

 与えられる多くの情報をより早く確実に読み取り、状況がより良い方向に導かれるようでなければならない。また現代のような医療も福祉も介護も混然としている時には総合的な働きかけが必要である。患者や利用者(国民)の立場で、そして真剣に各種団体相互の立場を考えて行動しなければならない。介護保険と医療保険の整合性を考え、各種非営利団体が1つにまとまって大切な社会保障費をいかに有効に使うかが大切なのではないかと思う。

 まだまだ課題はたくさんありますが、順次書き加えていこうと思っております。今後の医療行政を先生方がどのように判断しておられるのか?
是非率直なる意見をお聞かせ頂き、ご叱正を賜りたくお願い致します。

参議院議員/恒貴会・協和中央病院理事長
E-mail:kunoko@f7.dion.ne.jp

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