今こそ考えたい医療制度のあり方(2)
治療 Vol.83,No.3 <2001.3>

  
「医者は恵まれているよネ、こんな不景気でも儲かるのだから」ある会合に出席した時にでた言葉である。私は、「医者だって、これから大変なのですよ。ますますレセプトが厳しくなって、包括性が認めらるようになるのですから」と反発したが、誰も今後の医療の変革については分ってくれない。「介護保険」や「健康保険の1割負担」などで、ドンドンと増える介護費用や医療費の患者負担が医師の儲けと錯覚している国民は多いようだ。
 前回、「健康保険法等及び医療法等の一部を改正する法立案」について触れたが、その主たる目的は医療費の削減である。昭和57年の「老人保健法」制定以来、高齢化の進展とともに70歳以上高齢者の医療費は伸び続け、今や総医療費の30%近くを占めている。国保財政は国・県・自治体が3分の1ずつを負担して運営してきたが、このままでは地方自治体の財政圧迫になりつつある。そこで、現役時代に支払っていた社会保険の余剰金から拠出する制度が取り入れられた。昭和61年には加入者案分率が引き上げられ、以来数次にわたる「老人医療費拠出金制度」が改正されたが、ついに社会保険自身も運営不振に陥り約8割の事業所が破綻状態にある。このような状況を踏まえ、今回の「健康保険の改正」である。

 少子高齢化とともに、ますます高騰している老人医療費に対し、患者にコスト意識を持たせるとは言うものの、保険財政の破綻を視野にいれての患者負担増(1割負担)であるから、社会保障全体を眺めてみると、1割負担の中で3,000円とか5,000円とかの上限を設けるのは、論理的に改革しているのではなく、国民基礎年金で間に合うようにセットした単なる数合わせである。実施に当っては局所的な矛盾が色々と露呈しているがここでは省略する。
 さて、16項目の附帯決議の第1は平成14年までに「高齢者医療保険制度」を創設するとされているが、この内容は特に急増している後期高齢者の医療費を新しい保険で賄おうとするもので、75歳以上の人から5%の保険料を徴収し、90%を税(消費税のアップ)から拠出し、残りの5%は患者から徴収しようとする新しい健康保険制度である。すなわち、新しい保険制度の創設にて消費税までアップさせるということには国民はかなりの抵抗を示すことが予測される。
 このように医療費の高騰の財源を患者や国・自治体などから徴収することに対し「赤鬚的な医者」はいなくなってしまったのだろうか。医業は患者の苦しみを癒すのが本業である。何も病気ばかりではなく、今、不景気で倒産の危機に喘ぎ、リストラなどで高齢者自殺が増加し、世の中が荒廃して青少年犯罪が凶悪化しているご時世に、何らかの手を差し伸べてやるのが、我々医師の仕事ではないだろうか。世の中が苦しんでいるのを放って置くことはできないはずである。もっと高所大所から判断ができる有権者であると信じている。その意味では患者が自己負担の増大で、将来不安に慄いている姿をジッと見ているに忍びない思いで、今この文章を書いている。恐らく読んで下さっている先生方も同じ思いだと信じている。

 そこで、我々医師がこれらの憂慮に対し何ができるかの問題だが、やはり患者が「成る程と思うような医療」を展開するべきだと思う。アッチでも薬、コッチでも薬(あるいは検査)というのではなく。「病・診連携」や「病・病連携」のネットワークを効率的に行い、無駄な医療費を省くことで、患者自己負担はその分だけ少なくなる。
 これからは医者余りなんて言葉が出ている(地域差は勿論ある)が、概して、人口密集地域に開業医が多くなるのは当然である。公的医療機関と民間との役割分担は過疎地域ほど公的がやり、地域差を解消するべきである。やはり公的同様民間も定年制を設け、介護保険対応の医師となり、介護保険全体のコストを落とすように努力するのも1つの選択肢であると思っている。

 異論のある先生方もいらっしゃるとは思いますが、是非ご批判を仰ぎたく、敢えて書かせて頂きました。


参議院議員/恒貴会・協和中央病院理事長
E-mail:kunoko@f7.dion.ne.jp

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