治療 Vol.83,No.2 <2001.2>

  今月(11月30日)、参議院”国民福祉委員会”で「健康保険法等及び医療法等の一部を改正する法立案」が総理大臣出席(全く異例なことで、政治家としての政治生命を賭けて出席したと思う)のもとに、15項目の附帯決議を付けて審議終了した。夕方の本会議において、賛成139:反対99で可決された。内容の詳細はここでは省略するが、これらの附帯決議では平成14年度の抜本改革が前提とされている。特にこの中で注目しなければならないのは、新たな高齢者医療制度の創設についてである。すでに破綻状態にある現行の老人保険制度に対し本格的な抜本改革が急務となっており、その制度における具体案については各方面(日本医師会,各社会保険団体,経団連など)でそれぞれの構想が練られている。しかし議論はいわゆる保険制度、その財源をどうするかという問題に重点がおかれる傾向があり、医療提供体制側のシステムの整備、ひいては医療のスリム化に対する具体策はなかなか出てこない。私がこれまで主張してきていることは、まず医療提供体制の改革なくして、医療制度改革は成り立たないということである。高齢者自身に負担させるか、税金からとるか、などといった財源ばかりに注目していたら、このままでは改革の名のもとに、国民、特に高齢者、年金生活者の日々の暮らしが破綻に追い込まれる恐れがあるのだ、私が考える医療供給側の具体策については次号のコラムで述べさせていただきたいと思っている。今回は、この度可決され、健康保険法の一部改正(平成13年1月1日より施行)により、老人(70歳以上)の負担がどのように変わったか(重くなったか)を私の病院(199床 2.5:1看護)でのシュミレーションで説明したい。ここでは入院自己負担に対するものを提示する(表1)。

 1日の看護点数が1200点未満の場合、改定後の一部負担額は現行より低くなるが、診療点数が高いほど、短期間で限度額を迎える。例えば改正前では37,200円に達するのは31日間入院した時点であるのに対し、改正後は15日間となるので月内で短い入院ほど負担が増える。また改正による食事負担が20円増のため、31日間であっても620円の負担増となり、実際に払う最高負担額は61,380円となるこれでは4万数千円の国民基礎年金だけでは賄いきれないこととなる。ちなみに病院側の収入は今までどおり保険請求で補われているのであるから変わりはない。あくまでも患者の個人負担が重くなるのである。
 このシュミレーションはごく一部を示すだけで、これだけで今回の改正法の良し悪しを述べるつもりはありませんが、日々の忙しい診療に追われる現場の第一線の先生方が、このコラムを読んで医療制度改革のあるべき姿について少しでも興味をもっていただけると幸いです。


表1:高齢者医療(原則70歳以上)の入院自己負担 改定シュミレーション(H12.10月現在)

件数
延入院日数
1人当月平均入院日数
1日1人当平均点数
220件
3.364日
15.3日
2,571.3点


1日2,571点の患者が、10・15・20・31日間とそれぞれ入院された場合の自己負担額

  10日間入院の場合 15日間入院の場合 20日間入院の場合 31日間入院の場合
1日 1,200円
12,000円
18,000円
24,000円
37,200円
食事負担 760円
7,600円
11,400円
15,200円
23,560円
合計
19,600円
29,400円
39,200円
60,760円



 
25,710円
37,200円
37,200円
37,200円
 
7,800円
11,700円
15,600円
24,180円
合計
33,510円
48,900円
52,800円
61,380円

  一部負担差額
13,710円増
9,200円増
13,200円増
0円
食事負担差額
200円増
300円増
400円増
620円増
合計負担差額
13,910円増
19,500円増
13,600円増
620円増

参議院議員/恒貴会・協和中央病院理事長
E-mail:kunoko@f7.dion.ne.jp

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