治療 Vol.83,No.10 <2001.10>

 少子高齢者社会を迎え、医療費はドンドン高騰し、既に健保連の9割が破綻しかかっている。20年後の医療費は約2.5倍の約81兆円(老人医療費は現在11兆円で将来は45兆円になる予測)になる。現状の医療提供体制で推移した場合には、国民皆保険制度は崩壊してしまう。早急に根本的な医療構造改革をしないと、医療・介護保険は壊滅する。経済財政諮問会議が提示しているような医療費に総枠制をとられると、"痛み"は誰が負うのか?非常に問題である。医療機関は保険外診療で逃げられるが、結局、患者に掛かることは目に見えている。患者負担が掛かると国民は医療機関に必要最小限しか掛からず、医療界全体が脆弱化する。そのために、医療・介護は無料化する方策をどの様に構築するか?が問題である。これは医療界自身が考えなければならない問題である。

 7月28日の読売新聞に診療報酬支払い側(健康保険組合連合)と医療提供側(日本医師会)の見解が載っていた。前者は「老人人口の伸び率は4%なのに老人医療費の伸び率は8%であり、医療費を抑えないとやっていけなくなる。診療報酬を定額制にするべきだと主張し、後者は「高齢者の多受診制を抑え、予防医学に徹するべきだ、定額制にすれば手抜きをし、医療の質が落ちる可能性がある。また、高度先進医療や大学教育病院は別枠にするべきだ」との見解だが、いずれも具体策は提示してないが、来年から実施される課題である。

 この医療費に対する与野党7党の考え方も微妙に違っている。詳細は省略するが、いずれも医療機構改革には触れておらず、財源のみを取り上げている。総枠制をはめた時の財源の調達として消費税率のアップを充てにしているが、それでは国民が納得しないであろう。今のままでは誰も具体策を出せず、現場を知らない政治家や行政が国の方針を出す可能性がある。
 そこで、私見ではあるが、扶養控除額を"福祉目的税"として充てる案を提唱したい。所得税法第84、85条に老人扶養控除額は48万円である。健常者と同居している場合は10万円増、障害を持つ高齢者と同居している場合は35〜40万円(計10万〜50万円)が加算されている。ところが、核家族化や施設入居した場合は同居していないのに、同居扶養控除額をカットしてない。この部分がどのくらいなのか?国税庁は把握してない。その理由は、個人のプライバシーを侵害するからとして手を付けていない。一方では法律で決めながら、他方では底が抜けているのを取り締まる法律がない。法律で決めた扶養控除を徹収すれば十分な"福祉目的税"となり得る。地方自治体を含め、サービス提供者側が医療・介護・福祉のスッキリした提供体制を打ち出し、負担金のない安心したサービスを国民に提供すれば、国民はその"痛み"を我慢すると思う。
 医療供給体制のスリム化に対する皆様のお考えをお教え下さい。


参議院議員/恒貴会・協和中央病院理事長
E-mail:kunoko@f7.dion.ne.jp

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