私達の社会保障の行方
治療 Vol.82,No.12 <2000.12>

 第150回国会は9月21日から召集され、開会した。しかし、現状の選挙制度であれば次回の参議院選挙で保革逆転の可能性もある野党は、今回の「公職選挙法改正案」に強く反対し、あらゆる委員会への出席をボイコットしている(10月18日現在)。この改正の是非については新聞・テレビなどで論議がなされており、すでにご承知のことと思うので詳細は省略する。だが、今国会は前回衆議院選挙のため廃案となってしまった「医療法や健康保険等の一部改正案」や「少年法」「斡旋利得処罰法」などの重要法案が山積している。これらの件をキチンと審議する場に出席して論議を交わさない手法は民主主義政治の理念に反し、国民に対して責任のある行為と言えるだろうか?

 いずれにしても、その内の「医療法や健康保険等の一部改正案」については、下記の通りである。この原稿が皆様のもとに届く頃には、おそらく新聞などの報道でも取りあげられるであろうし、またその内容も委員会審議で変わる可能性もあるので、ここでは概要のみ書くこととする。

【医療法等の一部改正案の概要】
(1)  病床区分の見直し(現行では療養型病床群等の制度が創設されたものの、依然として様々な病態の患者が混在しており、これをはっきりと区分する)

@ 療養病床(人員配属および構造施設は現行の療養型病床と同じ)
A 一般病床(現行の4:1の看護基準を3:1に引き上げ、病床面積は1人当り6.4平米以上に引き上げる→新築・全面改築)
(2) 必置規制の緩和(委託業務の拡大)
(3) 適切な入院医療の確保(人員基準の不足には増員命令等を制度化)
(4) その他(広告規制の緩和や医療従事者の資質向上のための諸規定)

など4項目の案が提出されている。

【健康保険法等の一部改正案の概要】
(1)  老人薬剤一部負担を廃止し、介護保険と整合性を保つための「老人1割負担制」とする。ただし月額上限を設定。
(2)  
(3) 保険料率上限の見直し
(一般保険料率<=91%(健保組合は95%とし、介護保険料率を法案上限の外枠とする))
(4) その他
(育児休業期間中の保険料や国民健康保険の海外療養費創設など)

 これらの中には具体的な数字も入っているが今後の委員会の決める問題でもあり詳細は省略する。

 以上が両法案の骨子であるが、これについては各サービス提供者(三師会・看護協会・福祉施設や介護保険事業者など)の問題や税制の問題も複雑に絡んでいる。私は政治家になってからこの2年間、医師(開業医・病院経営者)として、また看護婦,福祉施設の立場なども含めた現場の目をもって質問を重ねてきた。しかし、与党の議員であるが故に執行部で決定した事項の質疑内容には限界がでてしまうというジレンマがある。
 さらに私が懸念しているのは、介護保険制度をスタートさせるにあたり「医療福祉審議会(有識者による)」で十分に審議されたはずの内容は国民に納得されたものであったのだろうか?ということである。介護保険がスタートして半年が経過した今、すでに見直しが提唱されている事実を鑑みれば、結局は国民側,施設側,地方自治体側いずれの意見も十分に取り入れずに厚生行政が作成した下案をタタキ台にし、机上の審議で有識者や与野党議員(当時は民主党も与党)が政治決着した結果の産物である。

 ところが今までもそうであったように、医療法改正は点数指導型の改正であった。この点数を決めているのは中医協(中央医療保険協議会)であるが、内容は政治家の目に触れない場所で決まっており、また、この下書きをしているのもやはり厚生行政である。

 前国会から政治家同士が委員会の質疑応答をしているが、確かにオールマイティに医療・福祉・介護・年金や環境問題に至るまで、すべての分野で専門行政よりも詳細に理解している政治家や有権者は少ない。官僚不在の立案は困難であることは承知しているが、後々の問題が生じないためにも現場の声を重視することが最も重要なのではないだろうか?特に利用者の声(患者・入所者・およびその家族)を大切にすることである。

 そこで「如何にしたら利用者の声を国政に反映されることができるのか!」ということが一つの課題となってくる。利用者は往々にして非常に弱い立場である。特に急速な少子化、超高齢化などによる社会構造の変化に伴い、危機的状況を迎えつつある社会保障制度そのものが激変している昨今では、なおさらサービス提供者によって与えられるものを黙従せざるを得ない。だからサービス提供者側が「我田引水的発想」をなくし、社会保障財源を大切にするような方法を考えながら利用者の立場で発言していかなければ何も始まらないのではないのだろうか。利用者の自己負担が増えるのであれば、提供者側も応分の犠牲を覚悟して年金の範囲内で賄えるような方法をとっていかなければ机上の空論に終わる可能性がある。

 まずはこの「治療」の読者の皆様が、この場を意見交換の場として有効に利用し、理解を深め、発言していくことで利用者の声が国政に届く近道になれば幸いであると考えております。ここでもう一つ忘れてはならないのは、私たちは”サービス提供者”であるだけではなく、”利用者”そのものだということであります。


参議院議員/恒貴会・協和中央病院理事長
E-mail:kunoko@f7.dion.ne.jp

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