医療 2001.7月号より
―「医療」の愛読者様からの質問&回答―
Q.医薬分業に先立つ非営利的算術知識普及の必要性 

    雨森医院 雨森正洋先生

社会保障制度の危機的状況について、しかもその改革案が机上の空論で進められる危険性についての7月号のLetters to the Editorと国会レポートG「医は算術にあらず」での久野恒一先生のご発言は、現代のウィルヒョウ(RL.C.Virchow)を見る思いで、日々の診療に追われるだけの自分を恥ずかしく思った。このような危険的状況下では、医療提供者側もある程度の痛みを伴うのは避けられないという主旨も理解できた。

 しかし、現在のような状況下で医薬分業の完全実施を進めるのは、誰のための制度か疑問を感じる。開業医で医薬分業に移った医師は、いわゆる高齢者外来総合診療を行う際に医療報酬的に院外処方にした方が有利と営利的算術をしたのではなかろうか?これでは医療費のパイは膨らむ一方ではなかろうか?さらに、給与制の一般勤務医には、たくさん薬を出すことや高価な薬を出すことのインセンティブは、以前よりなかった、薬剤価格を市場原理に委ねた欧米医療の例からしても、R幅(合理的な価値幅[リーズナブルゾーン])やダンピング制によって薬剤費の保険制度下での適正な利用が起こるとは考えがたく、その意味でも医薬分業は非常に疑問な制度である。ましてや参照薬価制度は、大規模EBMがブランド薬品のみの実情とその多大な広告料を含んで値引きされない薬価の悪循環(質と適正価格のアンバランス)が生じる危険が高く何をか言わんやである。  医療経済的に国民皆保険が破綻の危機にある状況では、適切な診療報酬を患者に請求するだけの医療行為の質が問われる。つまり、医薬分業に先行してわが国の医師に蔓延するブランド品嗜好の先入観や、効果や副作用が不確かな新薬をマーケティング情報に誘導されて利用する医師の思考回路自体の修正が必要と考える。そのためにも、医薬分業によって医師が薬価に無関心になるのは避けなければならないのではないか?薬剤医療費の適正運用に努力するにはブランド薬品と普及薬品(ジェネリック)の有用性比較などの客観的データをもとに、非営利的な算術的知識を身につけ、実際の薬業を行うのがインセンティブもあると思われる。

ただし、誤解を招くといけないので補足するが、医薬分業による薬剤相互作用のチェックや服薬指導などその効用を否定しているのではなく、薬剤医療費の適正使用的抑制を期待するのなら、まず先に日本の医師にみられる先入観是正のためジェネリックの品質と効果の科学的データについて厚生労働省などよりの提示が必要で、そのような誘導の方が経済的に有効であろう。さらにその後も、大病院や都市型診療所では有効な手段になる可能性はあるが、本来主旨の薬局を選べるという条件がない門前的薬局を新規に誘致しなければならないような僻地診療地域まで同じ条件で完全医薬分業を義務化する考えは、本当に患者サイドに立った改革と言えるのか疑問である。

 
A. 雨森先生ありがとうございます。 

  ご質問の件につき箇条書きで意見を述べさせて頂きます。 久野恒一
非営利的算術知識について

@まず題材の非営利的算術知識普及についてとあるが、非常に難しい問題で、こうすれば良いとう知識は持ち合わせてない。今までの医療法改正は中医協が決めた点数指導型の改正であり、その意味では行政が決めたようにシフトせざるを得なかった。行政自身もそれ程の知識は持ち合わせていない。昭和35年に薬剤師法で「医薬分業」が定められた頃はわずか1割だったが、昭和49年に処方料が引き上げられてから徐々に増加し、平成12年度には39.5%に達した。平成13年度の「医療法等の一部改正案」で、開業医の8割が定額制を希望したので、結果は出てないが、今後は爆発的に進行する。

Aその意味では医薬分業の完全実施は医療費が枯渇してしまった以上は必要な措置である。今までは医師の技術料が算定されていなかったので、それを加味して、医療分業すべきである。現状の体制では薬価を下げて、医療費削減を図ることは無理である。しかし、総枠制が引かれるのであるなら医療費の伸びは考えられず、現行の制度を変えなければならないのは確かである。

 B確かに、先生がご指摘のような医薬分業は誰のために進めると言われると、私は患者のためと言いたい。医師やメーカーのためではない。薬剤は医師から切り離した方が正確な薬が患者に届くようになる。参照価格制度の不信感や医師の不正防止のためにも是非やるべきだと思う。最後の部分に僻地の例を上げられているが、この部分はいろいろと発想を転換しなければならない。

CR-幅(合理的な価格幅)に付いて触れられているが、そのような基準はどのように決められるのか分からない。民間の仕入れ価格は安く、公的機関は割高である。なぜ同じ薬で購入価格が違うのであろうか。もちろん先行品目は高く設定されている。厚生労働省に類似薬の有効性比較を科学的データに基づいて提示すべきと書かれているが、臨床副作用検査は公的医療機関に依頼しており、同省には検査機能はなく、それ程の臨床を知っている技官もいない。

D一般勤務医の場合はたくさん薬を出したり、高価薬を出せないというご指摘はそれぞれの病院の経営のやり方で異なってくると思うので一概には言えない。

E医薬分業により薬剤はR-幅が0になると思われる。この場合市場原理により薬品メーカーのダンピング競争が始まり、大手メーカーが残る可能性がある。また、医療界にも一般企業が参加すると医療・福祉施設の倒産もある。

F最後に「正直者がバカを見る」やり方は一見つまらないようだが、患者が選択をするようになれば、生き残る医療機関は患者を一生懸命に診る医師である。来年からORCA(Online Receipt Computer Advantage)がスタートする。理屈抜きであることを認識して下さい。

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