今こそ考えたい医療制度のあり方

治療 2001年3月号より
― 『治療』の愛読者様からの質問&回答 ―

Q.高齢者医療の根本的あり方は?
 某大学医学部○○医学教室 A先生
 某大学教授 B先生


 今年の年明けの病院窓口は例年以上に大混雑となった。主に待たされるのは高齢の患者さんだった。平成13年1月1日から70歳以上の高齢者に原則として1割の医療負担を求める医療保険制度改革関連法が施行されたためである。制度そのものが複雑で事務にかかる時間が大幅に増加したのが原因であるという。

 大学病院でも同じ月に院内処方から院外処方には事務手続が非常に繁雑になるため遠慮してほしいとの要請が来ている。
新聞でも20床未満の医科診療所80.7%、歯科診療所では90.4%、訪問看護ステーションでは82.6%が定額制をとっており、その理由は低率制では事務処理が繁雑になるからだという。

 また、厚生労働省は1月23日都道府県と政令市の老年医療担当課長等による全国会議を開き、原則70歳以上の高齢者医療費について診療報酬明細書(レセプト)の点検強化を指示したと朝日新聞が報じている。複数病院で重複診察したり、頻繁に受信している高齢者に保健婦や看護婦の訪問指導を積極的に実施したり、一人当たりの医療費が高い市や区に対する適正化対策の強化を求めている。

 高齢者の医療費が原則一割負担になったことに伴い、昨年1月と比較して今年1月の高齢者の外来患者数が減ったと答えた医科は58.4%、歯科は54.9%、で過半数であり、高血圧、糖尿病などの慢性疾患の患者のうち医療費の負担増加が原因で受診を控えたという患者も20%前後見られたという。患者のうち過半数の方が「医療費が高くなって困る、受診回数を減らすしかない」など受診を控える傾向にあるという。

 医療保険制度改革関連法が施行されてからの傾向を見ると、確かに無駄な医療費をかけないという目的はある程度達成されたかと思うが、それ以上に事務量を不必要に複雑にして手間隙をかけて、なお且つ高齢者に係る医療費を減額しようとする目先の行動のみに走っているように感じるのは私だけであろうか?

 医療改革は果してこのような小手先のものでよいのであろうか?
 本来どうあるべきか?
 国会での議論の動向を踏まえつつ久野先生に伺いたい。




A.A先生B先生ご質問ありがとうございます。

 次のとおり私の率直な意見を述べさせて頂きます。 久野恒一

 先の臨時国会で「健康保険法等及び医療法等の一部を改正する法律案」が通過し、今年1月より実施になった。ご指摘のとおり、まさに“小手先”の改正と言わざるを得ない。なぜそうなってしまうのか?今までのコラムの中でも何度となく述べてきたが、法律の下書きをしている行政も、審議して決める政治家も、その道の有識者と言われている人たちでさえ医療の現場のことなど全く分かっていない。実施してクレームがでてやっとはじめて、それを問題点とみなすのである。患者にコスト意識をもたせるための1割負担に、文句が出ないようにと上限を決めた。さらに医薬分業を意識して、院外での処方が発生すればその時点で上限を病院と薬局の折半とした。一見無難にまとまった内容だが、これでは事務処理が非常に繁雑になることは目に見えていた。本当にコスト意識を持たせるのなら1割を窓口で自己負担し、年金生活で賄えない人には後から償還払い制にすれば分かりやすかっただろう。改善点はいくらでもあった。しかし、一議員が“こんな法律では大変なことになる”とどんなに言ってみても誰も理解できないのだ。5月号でも触れたが医療行政の政治的限界がここにある。

 先日(3月14日)、「21世紀の社会保障制度を考える議員連盟」の役員会で、超大物議員(会長)が「誠に遺憾ながら今回の医療構造改革の主なものは小児救急と救急医療に限定される」と重々しく発言した。この議連の役員には現職の大臣3名と厚生大臣経験者3名が含まれており、当日の会合には日本医師会の会長を始め副会長と常任役員が綺羅星のごとく並んでいる前での発言であった。これに対し意見を述べるものは誰もいなかった。最近の景気低迷と財政難での累積国債と地方債を合わせて666兆円となり、もうこれ以上債権は出せない。そして高騰する医療費、国民負担率が漸次増加している状況下で、国民が納得するような社会保障制度を構築出来ないと云う見通しが言下に隠されていたからである。しかもこれは既に総理大臣の諮問機関の『経済財政諮問会議』や『中医協』で決まっていることで、結局我々議員の耳に入った時には既に“決まっている”のである。平成14年の「医療構造改革」は「財政改革」のみの内容になる可能性が大きく、そうなれば取り返しのつかないことになる。

 とにかく今後の「高齢者医療問題」は介護保険を含め、色々矛盾点がある。医療改革が小手先のものにならないようにするためには現場を知らない行政や政治家に答えを要求するのではなく、現場の者たちが声をあげるべきである。早急に各団体が「社会保障問題はかく有るべき」との問題提起をするべきである。

 最後に先生方がこのように問題意識を持っていただき、また話題を提供していただけたことを心から感謝申し上げます。

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